サバ缶をはじめて食べたのは、ここ5年以内のことだ。実家では、サバ缶を使った料理というのは出てこなかったし、実家で食べ慣れてない食材を使うことには、料理が初心者の頃はとくにためらいがあった。
あなたは、スーパーでどのくらい「いままで食べたことのない食材」に手を伸ばせるだろうか。ついつい、いままで食べてきたものばかり、手に取ってしまうのではないか。「食べたことない食材、いつもうっきうきで買うよ!」という人がいたら、その人は勇者かもしれない。
とにかく、サバ缶をはじめて食べたのはここ近年のことなのだが、食べてすぐ「なにこれ! 安いのにボリュームあるし、ちゃんとサバ! しかも骨まで食べられるからカルシウムもとれるじゃん!」と驚愕した。
それからはまって、ときどきスーパーで買うようになった。一度でも勇気を出して買い、その味や手軽さに惚れ込めば、次からはもう怖くなく立て続けて買うようになるのだ。
サバ缶の食べ方で、一番気に入っているのが、薄切り玉ねぎとポン酢で合える一品だ。そういえばポン酢も、実家では味ぽん一辺倒だったので、それ以外のものを試したことがなかった私だが、スーパーの棚にさまざまなポン酢が並ぶのを見ていて、ここ最近はなくなるたび新しいメーカーのポン酢を買うようになった。
とくに、柑橘系のポン酢は、さっぱりしているうえにゆずやすだちのいい香りがして、すごーく美味しい。なので私は、今回ゆず風味のポン酢を使った。
作り方はいたって簡単。サバ缶を開け、身を菜箸で大まかにほぐしたあと、薄切りたまねぎとポン酢で合える。作り終えるまでに、三分もかからないだろう。「こんなに簡単なのに、こんなに美味しくていいの?」と思わず天を仰ぎたくなる美味しさだ。
サバは魚の旨味と食べ応えがあるうえに、サバから出る脂はポン酢のさっぱり感で打ち消され、玉ねぎのシャキシャキ感と辛みがアクセントになる。冷蔵庫になにもないときでも、サバ缶さえ転がっていれば、あっという間にできる。玉ねぎはだいたい、どのご家庭にもあるだろう。
勇気をだして新しい食材を求め、スーパーの棚に手を伸ばさなかったら、出会えなかった味がある。私も今後「これ食べてみようかな?どうしよう、でもどんな味だかわからないし…」とためらうときは、サバ缶での大勝利を思い出して、買ってみようと思っている。
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【プロフィール】
上田聡子(作家)
石川県輪島市出身。PHP文芸文庫「金沢 洋食屋ななかまど物語」、すずき出版月刊購読絵本原作「ゆきのひのふろふきだいこん」などを手掛ける。生まれ育った北陸の四季折々の風景とおいしい食べものが大好き。
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企画/永井千晶