『Imaya北欧便り』 #17 「襤褸(ボロ)」に魅せられた母、デンマークで個展を開く!後篇

2025/10/22 12:00:00

会場となったのは、コペンハーゲン郊外にあるリュンビューという町にある、古い風車小屋でした。


実は、このリュンビューは、2016年に私が初めてデンマークで住んでオペア(住み込みのベビーシッター)をしていた街。この古い風車小屋の前を、私は何度も通り過ぎていました。


開催の二日前に鍵をもらい、ドアを開けた瞬間、まるでトトロの〝まっくろくろすけ”たちが、サーっと散っていったような感覚を覚えました。室内はひんやりと少し埃っぽく、窓には蜘蛛の巣がはっていました。



私と母はすぐに雑巾とホウキを取り出してきて、大掃除を始めました。部屋は全部で4つ。


どれも広い部屋でしたが、極めつけは階段を登った屋根裏部屋。まるで合掌造りのような骨組みが見える大きな部屋でした。


掃除が得意な母はすぐにその部屋に取り掛かります。


一方、私はクモの巣にまみれた窓の掃除へ。かつて祖母がしていた“ほっかむり”の必要性を生まれて初めて感じ、頭にタオルを巻いてクモの巣をひたすら拭き取っていきました。


最中、「あれ、この匂い、どこかで嗅いだことあるな」と思いました。記憶を辿ると、それは、飛騨高山の古い家屋でやっていた母のお店「藍夢」の匂いでした。


ひんやりとした土と木の匂い。飛騨高山の古い家屋と、デンマークの古い風車小屋は、母と襤褸(ボロ)を通じて繋がっているのかもしれないな‥なんて思いながら、やっと掃除を終えた埃まみれの母娘。


そのまま、かつて私がオペアをしていたお宅に伺い、展示会の期間中滞在させてもらうことになりました。


初日は、朝から会場設営やおにぎり・お寿司作りに大忙しでしたが、今では16歳のお姉さんになった私がオペアをしていた女の子や、ちょうどその時に滞在していた日本人女性の助けもあり、なんとか迎えたレセプションパーティー。



デンマークでかつてお世話になった友人や私のデンマーク語の先生、日本大使館の方々など、多くの方が来てくださいました。


個展は4日間ありましたが、友人がローカル新聞へ告知をしてくれていたこともあり、毎日たくさんの方が足を運んでくれました。





期間中に2回、来てくださった方もあり、のべ100人以上の方にお越しいただきました。


最終日は、母が「刺し子」のワークショップを行いました。日本茶を飲み、羊羹をつまみながら、時にわいわい、時に黙々と、針を刺していきました。針を進める音のリズムとともに、ひと針ひと針に物語が重なっていきます。


個展では、多くの人から「美しい」という言葉を頂きました。


時間の経過と大切に使われてきた布自体の美しさ、刺し子や侘び寂びという文化にもデンマークでは興味を持つ方が多いように感じました。


確かに、ボロボロになるまで使われ、継ぎ接ぎされた古い布たちからは、ものへの敬意や、家族への思いやりなど、たくさんのものが縫い重ねられているのを感じます。


祖母が「こわい」と笑ったあの布は、いまや「美しい」と呼ばれるようになった。母が長年魅了されてきた「不完全の中の美しさ」を、ようやく理解できた気がしました。


そして期間中、私が着ていたのも、母と同じような継ぎ接ぎのベスト。母が持っていた襤褸(ボロ)の端切れを縫い合わせて作ったものでした。


ばあちゃん、私もとうとう雑巾みたいな服着るようになったわ!「あれこーえーな!」と、目をぎゅーっとつぶって笑う祖母が目に浮かびました。


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【プロフィール】


鍋島 綾(富山県生まれ)

大学でデンマーク語と北欧社会福祉を専攻。

会社員勤めの後、アンティークバイヤーとして

2016年から北欧と日本の間を行き来している。

鍋島 綾(著)『ゆるりと風に。ここは北欧』/桂書房 はこちらから。


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編集/永井千晶