『のどかごはん12ヵ月』#1 弥生 梅だし茶漬け

2024/3/13 12:00:00

ああ、今日は時間もないし余裕もない!でもお腹はすいたし、さっと食べなければならない。そしてなんだか、体調もいまいち。こういうとき、いったい何を食べたらいいんだろう。――誰にでも、そういう日はあるのではないだろうか。


基本、調理作業は苦にならないタイプではあるけれど、それでもときに「なんにもつくりたくない日」や「仕事に追われていて、とにかくさっとつくってさっとすませたい日」がある。最近、そういう「時間も余裕もない日」にピンチヒッターとして私は梅だし茶漬けをつくっている。


お茶漬け、といえば緑茶やほうじ茶を使った茶漬けがどちらかといえば定番なのかもしれないが、私はここ近年、だし派である。もちろん、さっぱりとした緑茶、ほうじ茶の茶漬けも美味しいことにかわりはない。とくに、大学受験生だった高校三年の冬などは、よく夜食として母が永谷園のお茶漬けのもとと、緑茶を使ったお茶漬けを出してくれていた思い出もある。


その思い出をもってなお、最近はだし茶漬けのほうをこよなく愛している私がいる。用意するものはいたって簡単、和風顆粒だしの素、梅干し、醤油、ごはん、お湯。これだけでよい。


ごはんを器に盛り、だしの素を少量ふりかけ、沸かし立てのお湯はたっぷりお醤油少し。あとは梅干しをごはんの上に載せればできあがりである。もし自宅にあればだが、ごまや海苔をふりかけても美味しい。ねぎやしそ、三つ葉などの薬味があればのせてもいいが、あくまで最初に並べた材料だけでことがすむ、簡単も簡単な一品だ。


それでも、体調がどうも低空飛行な日など、この梅だし茶漬けは体へと染み渡るように美味しい。あたたかで醤油の香るだしがのどに降りていくと、なんだか安心してしまう。さらさらとごはんと梅をかきこめば、体の調子もすこしましになる。


祖母は生前、自宅で梅干しを毎年初夏になると漬けていた。亡き祖父が一年通して毎朝毎朝、おかゆとともに梅干しを食べることを欠かさなかったからだ。台所に立つことを愛しながらも、まだ味噌も梅干しも自家製のものをつくったことがないものぐさな私だが、ときどき祖母の漬けた梅干しを懐かしく思うことがある。祖母にならい、いつか漬けてみたいものである。


まだ体のあちこちが冷えやすい春のはじめに、ほっと一息つける梅だし茶漬けはいかがだろうか。器をからにしたそのとき、きっと体も気持ちもあたたまっているはずだ。



【プロフィール】


上田聡子(作家)

石川県輪島市出身。PHP文芸文庫「金沢 洋食屋ななかまど物語」、すずき出版月刊購読絵本原作「ゆきのひのふろふきだいこん」などを手掛ける。生まれ育った北陸の四季折々の風景とおいしい食べものが大好き。


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企画/永井千晶