『愉しみとやま』#2里山で女王に出会った

2023/5/10 12:00:00

今年は、降雪量が少なかったせいで、いろんな芽吹きが早いらしい。山菜もしかり。山菜は、山の雪解けを待って順に出てくるものだそう。雪が解け始める3月、フキノトウやアサツキが顔を出す。続いて、くるくるカールのコゴミ。ヨシナにワラビ、ゼンマイ、ウド、ススタケ。そしてタラの芽、コシアブラと木の芽に移ってゆく。ここは、富山市八尾町のずっと進んだ先にある里山、大長谷。『春の山菜deイタリアン ツアー』にやってきた。


山菜採り歴50年のガイド、村上光進さん(元ハンター)が一緒なので、初心者だけど不安はない。ツアーの後には、温泉に入って汗を流し、山荘で絶品山菜イタリアンをいただくのだ。だから、もし山菜が採れなくても、これまた一安心。


「これね、採ったらブンっと振ってはかたれ。チクチクが痛いから」光進翁の山菜レクチャーがはじまった。しかも素手ですよ。いきなり難易度が高そうな山菜に、固まっていると、ブンブンとアザミ振って、ほぃと手渡してくれた。これ、どうやって食べるんだ?と、顔に出ていたのだろう。「天ぷらにしてもおいしいし、さっと茹でて味噌煮にしてもうまい」とすぐに教えてくれた。アザミは熊の大好物でもあるらしく、そばには熊がいたと思われる大きな穴もあり、また固まる。そうだった、我々が山に足を踏み入れているんだった。


50年のキャリアに失礼な話だけど、光進翁の山菜眼はすごい。とても摘みやすそうな場所に、おいしそうにはえている菜を指し、これ、山菜ですか?と聞いたら「そりゃ、ダメ」と一言。見向きもせず、草をかき分け、ポキッ、ポキッと音を響かせながら、違う形状の山菜を採っていた。どうやら翁とは、見えているものが違うらしい。


イタドリは、切り口がフキのように空洞になっていて、皮をむくと、スッとした香りがする。促されるままかじってみると、例えようのない酸味がして、すぐにサッと消えた。これまた、たくさん採っていただくのだが、下処理がなかなか大変と知り、のちに食べるのをあきらめた。



「いや~、もう2、3日早かったらよかったのぉ」とつぶやき、翁はひょいひょいと緑の中に消えていく。コゴミって、成長したらこんな感じなんだ…。まるで、コゴミジャングルじゃないか!



どんどん、道なき道を進む。土の上を歩く感触。枝や葉を踏む音。特有の澄んだ空気。時折、クロモジのふんわり甘い香りが、木々を抜ける風に乗って鼻をかすめる。そうだ、山の中って、こういう感じだった。わたしは、前にも来たことがある。ガールスカウトのキャンプで里山を歩いた時だ。みんなで摘んだヨモギで、草団子を作ったことを思い出した。あの時、山道で採った草が食べられると知り、衝撃を受けたのだが。その団子のおいしいことといったら!あれからわたしは、ヨモギ強めの草餅が大好きになった。


そしてこの春、里山でわたしは女王に出会った。彼女の名は、コシアブラ。山菜の女王と呼ばれている、と知る。芽吹いた葉は、きれいな黄緑色をしていて、艶がありピカピカしている。耳にしたことはあったけれど、こうして実際にお目にかかるのは、初めて。目を凝らせば、あちらにも、こちらにも、木の先に女王が気高く立っている。ガイドさんが、高いコシアブラの木を、ひょいと下げてくれて、わたしはそれをせっせと摘んだ。山の恵は大切なもの。取りすぎてはいけないのではと、ドキドキしたけれど、そこは、ガイドさんの加減に甘えておけば大丈夫なのだろう。


山菜は、あく抜きなどの処理が必要で、とにかく難しいイメージがある。どこを食べいいのかも、よく分からない。味の具合も知らないから、適量も読めない。だから、村上山荘でいただく山菜イタリアンは最高だった。


カンゾウ、コゴミ、葉ワサビ、キャラブキ、イラクサ、ススタケ、シャクの葉、コシアブラなどなど、少しづつ違う味付けと、調理法で一皿に大集合している。んん?シャク⁉「シャクというのは、ヤマニンジンのことね」とシェフの森恵美さんが教えてくれた。確かに人参の葉に形が似ている(サーモンの上にある白い花を付けたもの)。まだまだ知らないことだらけだけど、食べながらだと覚えられる気がする。



薪窯で焼かれた3種のピザ(コシアブラ&タケノコ、フキノトウ味噌、ジビエソーセージ&クレソン)、パスタ(イラクサ、コゴミ、コシアブラ、山椒、タケノコ)、フキノトウを練り込んだニョッキ、ワサビのピリ辛アイスのデザートに至るまで、ゆっくりと春を味わいながら、とやまの豊かさを思ったのでした。


さて、今ツアーの取れ高。中でもお気に入りは、なんといってもコシアブラ。さっと茹でて、すぐに使えるとあって、とってもわたし向き。酢味噌で和えたり、鰹節と醤油で味付けしたり。刻んで、ごはんに混ぜるだけのコシアブラごはんは、コクのあるほろ苦さと、しっとりとした香りで、やみつきになるおいしさ。来春も、女王に会いに行くとしよう。


>>#1ここも、とやま


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文/永井千晶