富山県朝日町の最も東(その先は、新潟県)にあるヒスイ海岸(宮崎・境海岸)。
あれは、私がまだ会社員だった頃。隣の部署に、ほぼ週末はヒスイ海岸にヒスイを拾いに行くという、おじさんがいた。そして、デスクで自慢の石を磨きながら、私に見せて言う。
「どうだ?」
どうだ?と言われても、正直分からなかった。が、ずっと気にはなっていたヒスイ海岸。いや、気になっていたのは、石の方だ。そんなお宝が、そう簡単に見つかるものなのか!?
富山方面
新潟方面
そして、ついにやって来た。小石の海岸にじっくりと訪れたのは、実は初めて。東西におよそ4キロに渡って広がるヒスイ海岸は、なんだか北陸の日本海っぽくない。
この日の天気予報は曇り雨。石探しに来たと思われる人たちが既に何組もいる。天気が良ければ、日に1,000人以上が詰めかけるというから驚く。陽がさすと海面がみるみるうちにエメラルドグリーンに変わっていった。
「海が翡翠色になってきたのぅ」
〝ヒスイハンター”歴65年の扇谷誠さん。御年87歳。今回、参加したツアー『水めぐり ヒスイきらりん・海鮮コース』のヒスイガイドで、ヒスイの鑑定人でもある。
扇谷誠さんと、森田由樹子さん(エコロの森代表)
聞けば、海岸にヒスイを求めて人が集まるようになって、55年程らしい。正直「まだ55年?」って思った。ヒスイ→勾玉→太古の昔、みたいな感じで、古くより知る人ぞ知る場所として、人々が訪れていたのかと。
「あの山の方に、浜山玉つくり遺跡が昭和42~43年頃に見つかってね。それからだよ」
富山県指定史跡「浜山玉つくり遺跡」は、古墳時代の中期(今からおよそ1,500年前!)の玉の工房遺跡で、古墳時代のヒスイ工房の発見としては、日本初の遺跡だそう。見つかった2棟の竪穴住居跡では、硬玉(ヒスイ)や滑石を加工して玉類を作っていたらしい。その材料となる石は、眼下の海岸から集めたものなのだろう。(詳細は、「まいぶんKAN」へ)
それって、ここ一帯が、日本のヒスイ文化発祥の地と言っても、過言ではないんじゃない!?
「昔はよく、山で畑作りをしたお母さんたちが、きれいな石を拾ってきたゆーとったわ」
なんと!
「わしなんか、子どもの頃からよく海岸できれいな石だな~って思って拾ってきて、家の庭にゴロゴロ転がしとったものよ」
その石(きっとヒスイ)、今いずこ!?
なぜ、この海岸でヒスイが見つかるのか?主に2つの説があるそうだ。新潟県の糸魚川にあるヒスイ峡から、姫川や青海川を流れて海に入る説。そして、そもそも海底にある説。どちらの説が正しいのか分からないけれど、糸魚川で見るヒスイに比べて、ここ朝日町で採れるものは、ツルツルと磨かれているのが特徴らしい。
さっそくヒスイ探しへ。ヒスイ探しは波打ち際を歩くのが鉄則。濡れている石の方が見やすいからだ。
「ポイントとして、ふたつ言うちゃの。①白っぽくて、②角ばった石。まず、それを探され」
と、ヒスイ翁。
「ほれ」
え?これ、ヒスイ??
「いや、なりかけ」
??
「あと何千年、地中にあったらのぉ」
ほれ、ほれ、と、翁からどんどん渡される石たち。ヒスイになりかけから、いろんな色、模様のヒスイまで…。ヒスイって、緑色だけじゃないのね。
ようやく拾い、翁に尋ねる石、みーんなポイっと捨てられてしまう。
「あんた、なーんポイント抑えとらんねか」
ドキっ。ようやく目に止まるようになった石は、白くてツヤツヤの、丸みを帯びたものばかり(石英というらしい)。だって、綺麗なんだもの。
ヒスイ翁は、3歩に1個の割合(くらいのスピード)で、どんどん見つけていく。全部同じ石にしか見えないのに、いったいどうなってるんだ!?翁の眼力!!
「石を巻き込み運ぶ波の音、その石が他の石に当たる音で、分かる」
硬いヒスイは、石にぶつかるとコンコンコーンと音をたてて弾け飛ぶそうだ。翁は眼力だけじゃなく、耳力もすごかった!
波打ち際に石が弾ける
「これ、ネフライト。これ、蛇紋岩。これ、メノウ。これ、キツネ石」
知らない石も渡される。ここには、ダイヤモンド以外の石が全部あるそうだ。
キツネ石は、ヒスイに似た石のことで、手渡されたものは、とってもきれいな緑色をしていた。これだったら、分かりやすいんだけどな~と、独りごちたら。
「あんた、キツネも見つけれんねか」
うぅ。
ヒスイ翁の歩く後には、ヒスイなし。ならば!と、急ぎ追い抜き石を探すも、私の歩いた後からヒスイを見つける翁。いったい、どゆこと!?
「波がザーっと引いた時にやな、ポチンと置いていってくれる。地球のカケラよ」
翁、カッコいいこと言うなぁ。
ヒスイ翁着用のベストのポッケには、ご自慢の〝地球のカケラ”がゴロゴロ入っている。翁は、ポッケからヒスイを取り出し、ヒョイと投げて見せた。水辺に並べてみると、その美しさがよくわかる。けど、単体で沢山の石の中にあると、難しいんだよな~
「あと、4回くらい来たら、見分けられるようになる」
およそ2時間のヒスイ探し。最後にようやくキツネ石を見つけた。ヒスイじゃないけど、割といいキツネ石らしい。
少しは眼力ついたかな?
ヒスイ探しの後のお楽しみ。このツアーでは、朝日町の郷土料理「タラ汁」の昼食がいただける。ヒスイ海岸並びのお宿へ移動する。
かつて、タラ漁が盛んだった朝日町。漁へ出た男たちを、その女房たちが大鍋で「タラ汁」を作り、浜辺で出迎えたのが始まりらしい。
丸ごとぶつ切りにしたタラを煮込み、味噌とゴボウを加えて、仕上げにネギを散らす。この辺りでは、平皿でいただくのがお決まりだそう。
私は、タラ汁は冬に食べるものと、勝手に思い込んでいた。
「我々、こどもの頃は、ゴールデンウィーク明けくらいにタラ釣りに出てましたよ」
と、宿のご主人。へ~。朝日町、知らないことだらけだわ。
今回、参加したツアーは、全国から来ていない県がないほどの人気っぷり。参加者は、ほぼ100%県外からのお客様だそう。確かに富山にいたら、いつでもすぐに行くことができる。けど、ヒスイ翁にじっくりレクチャーいただき、宿の方の話を聞きながら本場のタラ汁を食すってのも、新しい発見があって、なかなか刺激的なものである。
《おまけ》
ヒスイ翁が、貴重なコレクションを見せてくれました。
「ヒスイテラス」の2階に展示されているよ
このサイズ感、量、色の美しさ!翁コレクション半端なかったー!!
【バックナンバー】
◎協力
\ヒスイ探しツアーは、4月~11月まで実施!/
Facebook:https://www.facebook.com/ecolonomori.jp
文/永井千晶